「昨日必死に覚えたのに、もう思い出せない…」
そんな悩みは、多くの人にとって共通のものです。何度も繰り返して勉強しているのに、なかなか覚えられない。これは自分の能力が足りないからではなく、人間の脳の仕組みに原因があるのです。
この“忘れるメカニズム”を科学的に解き明かしたのが、19世紀ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウス。彼が発表した「忘却曲線(ぼうきゃくきょくせん)」は、現代においても暗記学習の基礎理論として広く知られています。
エビングハウスは、自らを被験者として、意味のない音節(例:XAR、DUKなど)を覚えたあと、どれくらいのスピードで忘れていくかを記録しました。その結果分かったのは、人間の記憶は時間とともに急激に薄れていくという事実です。
具体的なデータは次のとおりです:
20分後:42%を忘却
1時間後:56%を忘却
1日後:74%を忘却
1週間後:77%を忘却
1か月後:79%を忘却
つまり、何もしなければ、わずか1日で7割以上の記憶が消えるのです。これはショックな数字に見えるかもしれませんが、逆に言えば、適切に復習すれば記憶を維持できるということでもあります。
忘却曲線を逆手に取ることで、記憶をより長く保持することができます。そのカギは「復習のタイミングと方法」にあります。
人は繰り返し接触する情報ほど、記憶に残しやすい傾向があります。これを活かしたのが間隔を空けた復習(分散学習)です。例えば以下のような復習スケジュールが効果的とされています。
1回目:学習直後
2回目:1日後
3回目:3日後
4回目:1週間後
5回目:2週間後
このように、記憶が薄れるタイミングで繰り返すことが、記憶定着のカギになります。
「思い出すこと自体」が、脳にとって最高のトレーニングです。これはアクティブリコール(能動的想起)と呼ばれ、以下のような方法で実践できます:
フラッシュカードを使う
ノートを閉じて、自分の言葉で説明してみる
章末問題や小テストに取り組む
ポイントは「答えを見ずに、自分の頭で引き出す努力」をすることです。
人に教えることを前提に学ぶと、理解が格段に深まります。これをフェイマン・テクニックといい、以下の手順で実践します
覚えたい内容を紙に書き出す
小学生にも分かる言葉で説明する
分からない部分を洗い出して復習
再度説明を繰り返す
このプロセスにより、自分の理解の穴を発見し、補強することができます。
意外かもしれませんが、記憶は睡眠中に整理・定着されます。特にノンレム睡眠(深い眠り)の間に、海馬が情報を長期記憶へと移動させることが分かっています。
そのため、夜に学んだことを復習してから寝ることで、記憶の定着率が上がります。徹夜で勉強しても記憶に残らないのは、このサイクルを妨げているからです。
人間の脳は「忘れるようにできている」。これは決して悪いことではありません。重要なのは、「どうやって忘却に抗うか」という工夫です。
学習後すぐの復習
間隔を空けた繰り返し
思い出す訓練(アクティブリコール)
睡眠の活用
他人に教えることで理解を深める
これらの方法を組み合わせることで、ただの暗記ではなく、「記憶に残る学び」が可能になります。
勉強時間を増やすよりも、「脳の仕組みに合った学び方」を取り入れて、効率的に学びましょう。忘却を恐れず、味方につけることで、あなたの学習は大きく進化するはずです。
山口大学経済学部観光政策学科卒業。2024年の10月に漢検準1級に合格し、現在1級を勉強中。座右の銘は「最大公約数」。サードプレイス(第三の憩いの場)的な塾を目指し、そこを居心地の良い場所、行きたいと思える場所になるように日々頑張って行きます。