近年、子どもの放課後や休日は習い事で埋め尽くされる傾向が強まっています。
学習塾に通うことはもはや一般的ですが、それに加えて英会話、プログラミング、ピアノやバイオリン、水泳、サッカーなど、保護者が子どもに与える習い事の種類は年々多様化しています。背景には、「将来の選択肢を広げたい」「小学校や中学校で得られない力を補いたい」といった保護者の強い教育的意識があります。
しかしその一方で、過剰な「詰め込み」が子どもの生活にどのような影響を及ぼすのか、社会全体で議論すべき段階に来ています。
文部科学省の「子供の学習費調査」(2022年度)によると、公立小学校に通う子ども1人あたりの年間学習費は32万2千円、そのうち「学校外活動費」が全体の約半分を占めています。都市部の家庭では習い事への投資額が50万円を超える例も少なくありません。ベネッセ教育総合研究所の調査(2019年)では、小学生が平均して2種類以上の習い事に通っており、週5日以上の活動を抱える子どもも一定数存在することが報告されています。
このように習い事が日常化し、かつ多様化する一方で、家庭の経済状況がそのまま教育機会に直結しているという現実も見逃せません。教育費に余裕のある家庭では子どもの経験値が広がる一方、そうでない家庭では選択肢が限定され、結果として「経験格差」「教育格差」が広がっていることが、教育社会学の研究でも指摘されています。
習い事の過多によってまず影響を受けるのは、子どもの自由時間です。
放課後の多くが移動や活動に割かれるため、かつて家庭や地域で自然に行われていた「外遊び」や「友達同士の交流」は減少傾向にあります。小児心理学の分野では、自由遊びの中で育まれる「自己決定感」や「創造性」が、その後の学習意欲や問題解決力に大きな影響を与えるとされており、過剰なスケジュール管理が子どもの成長に負の影響を及ぼす可能性があることが懸念されています。
さらに、全国学力・学習状況調査(文科省, 2023)でも、十分な睡眠を取れている子どもの方が学力面で安定した結果を示す傾向があると報告されています。習い事によって帰宅が遅れ、結果として睡眠時間が削られることは、学力にも間接的な悪影響を及ぼしかねません。
重要なのは、習い事が多いこと自体が問題なのではなく、その背景にある教育観と家庭での意思決定の在り方です。
親が「将来のため」と考えて一方的に選んだ習い事であれば、子どもは受け身的にこなすだけになり、学習意欲や自己効力感の低下を招く可能性があります。逆に、子ども自身が興味関心を持ち、主体的に選択した活動であれば、多忙であっても精神的な充実につながる場合もあります。
教育の本質に立ち返れば、「ゆとり」とは単に時間的余裕を意味するものではありません。むしろ、子どもが自ら考え、選び、試行錯誤できる余地を持つことこそが真の「ゆとり」だと言えるでしょう。つまり「詰め込み」と「ゆとり」の境界線は、習い事の数ではなく、そこに子どもの主体性があるかどうかによって引かれるべきなのです。
私たち塾関係者が日々接している子どもたちを見ても、習い事の多寡と学力の伸びには単純な相関は見られません。
むしろ「時間の使い方に主体性を持っているかどうか」が学習成果を左右していると感じます。教育は本来、可能性を狭めるものではなく、広げるものであるはずです。習い事が多すぎて心身の余裕を失えば、その目的は本末転倒になりかねません。
「より多くの経験を与えたい」という親心と、「自分の時間を大切にしたい」という子どもの感覚。その間にある緊張関係をいかに調和させるかが、現代の子育てにおける大きな課題です。詰め込みとゆとりの境界線は、子どもの主体性に基づいて慎重に引かれる必要があります。教育を「投資」と捉えるだけでなく、子どもの幸福と成長に資するものであるかどうかを、今一度問い直すべき時に来ているのではないでしょうか。
毎日個別塾5-Days皆実町教室教室長。皆さんが望んだ将来に向けて歩めるように、日々その手助けをさせていただいております。学校の復習から受験に向けた対策、将来の相談など小さなことから大きなことまで、何でも共有出来るような教室を目指しています。この場でも皆さまの手助けになれるよう、様々な情報を発信できればと思います。